とおい日に
「地球」 2005
遙かな日にもやはり あなたはわたしの手をひいて 見しらぬ花野へと導き 咲きわう草花の名を告げてくれた その舌から転がりおちる響きを わたしの耳はこころよく 呪文のように聞いていた 草の種をあつめて わたしの掌に握らせてくれた その手の記憶からとおざかり 雲海に映る翼の影のみを あいまいな想起にかぞえつつ 草花ばかりか ひとよ あなたの名も忘れてしまったが 覆されようとする世界に みずからが臨んでいる昂奮と 誇りを握りしめていたころ 稲妻の閃くその下に 叢生する花のあかい色と 鋭い剣のかたちだけはなぜか 心を去ることがなかった なぜかいま旅の途上で おのが掌の空しさに 不思議をおぼえて立ちどまると 道のつづく先にひろびろと 明るい野がうかびあがり その片隅にだれかが ちいさな庭園を拓いている つめたく黄ばんだ冬の日の 植生はいかにも乏しいが 年の巡りごとに花ひらいていた そのなごりの跡に ひとよ あなたが託した想いを認めて いつのまにかわたしは あなたの後姿に呼びかけている |