鉄の時をめぐって
「ERA」第5号 (2005.9)
四肢を削ぐような気流の渦にもてあそばれ 雲の大海のうえへと一気に牽き上げられていた もはや引き返すことはかなわぬと想い定めて 真っ青な空のひとところに身の腑を晒している とおくの銀盤に重なって黒い翼が金色に輝く その一瞬の露光を漏らさず写し取り送信する 世界にはこの報告を蒐めている者が沢山いる その数はきっと古の見者の総計を凌ぐであろう 膨らむ地平の向こうから熱い鉤が近づいてくる 雲の柱とともに巨きな拒絶が眼の前に迫っている だが空の深淵への畏怖を人はとうの昔に棄てた 迫りくる風の源を告げるのはただ嘲りを招くため 饐えた世界の澱に沈んだ粗鉱の輝きは乏しく 引き裂く欲と抱く意志とを見分けることは難しい 西の方の総てを恵み与えるという巧みな唆しを 禍言と告げて言い逆らわれる厭わしい徴となる 探査機としてこの世界から遣わされてはいても 身はむしろ向こう側から開いた覗き窓と知れ 引き裂く嵐に抱かれ身は黒雲の電撃に撓むなかで 破壊しつくしてやまぬ息吹の深い呻きを伝える 宙の軋りを受信して人は驚き訝しむことであろう 遙かな昔に喪ったその感覚が疼きはじめるまで |