7.人形遣い
 
 気に入ったかね。ミンナが黙っていると、老人はそう尋ねました。あなたにぜひ、見てもらいたいと思った。いまでは、あまり見向きもされないが。子供たちは、今では映画やテレビに夢中だからね。そういう時代なのだ。仕方がないよ。
 老人は、ハマンという名前でした。粗末だけれど、慈しんで手入れをしていると分かる、わずかな家具に囲まれて暮らしています。棚の中をしばらく探しているようでしたが、ようやく嬉しそうな顔をして振り返ると、大切な茶葉をつまみ、手ずから湯を沸かし、もてなしてくれました。
 お茶を飲みながらの身の上話によると、ハマン老人は、ハンガリーかどこか東の系統のドイツ人でした。そう言われれば、はじめて話しかけられたときから、そのドイツ語にはどこかの訛があるようで、身ぶりにもどこか外国風の気配を感じました。
 前の戦争が始まった頃は、まだ若い見習いで、ある人形劇場の一座に伴って、ケーニヒスベルクやリガにまで巡業をした。そこではじめて自分の満足のいく人形ができあがった。そう言うと、老人はクララの方を見つめます。クララの顔はすましたまま・・・・。
 だが、やがて戦火が激しくなり、東から軍隊が迫ってきたとき、この人形をまずは携え、あとは持てるだけを持ってこちらを目指したのだ。難を逃れる人々とともに、つてをたずねてここまで来た。それから、ゆえあってここを郷里として暮らすようになった。
 その後は、人形劇場の人形師、人形使いとして力をふるうときもあったが、だんだんと時代から取り残された。年老いて、とおい親戚との音信も絶え、とぼしい身寄りとの行き交いも遠のいて、いまではクララが唯一の伴侶だ。
 ハマン老人は、ミンナを見ながら話していると思うと、眼の色は退いていき、表情はずうっと遠くを見つめているようです。
 ミンナはもう、先ほどから質問したくてうずうずしていました。クララを見ていると、その肌の木目の色から、その鼻の先がすこし生意気そうにはねあがったところまで同じです。もうまちがいありません。
 
「ハマンさん。追われて逃げるとき、
連れて行ったのはこのクララだけ?」
 
何故そんなことを聞くのかと、老人はいぶかしむ顔をしました。人形はもともとたくさんあったのだよ。旅路に難儀をして、いつのまにか、一つ減り、二つ減りして・・・
 
「ハマンさん。わたし
同じ眼をした人形を知っていると思う。」
 
こんどは老人が驚いた顔をしました。
 
「ジークリート!」
 
 
 
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