「森を守れなかった森林官の話」
Es war einmal .....
むかしむかし
あるときのこと、
ジークリートという名の
一人の森林官がおりました。
周囲の山々が氷河を抱く
ゆたかな山国の
森と人々の暮らしの境に住みながら、
白樺や樫
楓といった
さまざまな木々の生長の時を測り、
それぞれの命の脈をととのえながら、
ひっそりと暮らしておりました。
特別なところのない
控えめな生活を送っておりましたので、
彼の生活にくりかえし
不思議なことが起こっていたとは
誰も知りませんでした。
その不思議なことは
もう幾年も前から起こり続けていたのです。
ジークリートが
木々の枝を落とし
下草を整えたりしながら、
今日の仕事はここまでにしようと
家路を辿っておりますと、
道のかたわらに
質素な身なりの
一人の少女が立っています。
なんと裸足でした。
不憫に思って近づくと
少女は笑いかけてきます。
ころころと
鈴をころがすようなふしぎな笑い声です。
いくら問いかけても何も応えず
ただ笑っているだけですので、
途方に暮れて
会釈をし 笑い返して
家路をさらに辿りはじめると、
少女は笑いながらジークリートの後をついてきます。
ジークリートの足音に和するように
鈴の音が響きます。
振り返ると 適当な距離をおいて
笑っているだけ。
家にお帰りと言っても
ただころころと笑っているだけで、
とうとうジークリートの住まいの前まで
鈴の音がつづきました。
これはもうしかたがない、
温かいスープでも振るまおうと
振り返ると
少女の姿はもうどこにもありません。
そんなことが
時折
あるいは頻繁におこりました。
いつもかわらず
森のどこかの道端に立っていて、
きまって
森林官の家の前まで
その娘はついてきました。
ただひとつ
著しいことは、
その娘が
日を加える間に
少しずつおおきくなり、
肌の色も透きとおるようになって、
木イチゴの色を映しだすようになっていったことです。
その娘は
森林官の仕事を
どこかで見ているように思われ、
彼はますます仕事に励みました。
そうして
森林官が森の仕事に精を出せば出すほどに
娘の姿は成長し、
表情には豊かさが加わってゆきました。
ジークリートは
森の王女のようなその娘に思いを寄せ、
ひそかにクララと呼びながら
出会いを楽しみにしておりました。
そうしてある日、
とうとう娘は
ジークリートの差し出す手をとり、
二人は手を携えて
いつもの道をくだりました。
家の前でやはり娘の姿がみえなくなるまで。