全ての森が燃えつきるのに
十日を要しました。
森はくろぐろとした炭の堆積となり、
舞い上がった灰は空を暗くしました。
そうして
その焼け野原の真ん中には
あの樫の木がなおも燃えていました。
樫の木の炎が尽きるのにさらに十日を要しました。
いつまでも燃えているその姿は
まるで夜の中に赤い木がそびえ立つように、
その姿はこの木が新しい季節に備えて
つぎつぎと色づいた葉を落としているように見えました。
そうして十日目の夜に
全てが闇となり。
静けさが来ました。
混沌が世界を覆いました。
 
 夜はひとときのこと、
いつかは明けます。
光がこの世界に流れ込みます。
その光は水の放つものでした。
谷がまるで るつぼのようになったためでしょうか、
山々の抱いていた
高いところの氷の川が
溶けていきます。
東から 西から
そして北から 南から
流れは水晶の転がるように、
ころころと響く
懐かしい笑い声のように、
渓を降っていきます。
谷全体がころころという笑い声に充ちていきます。
流れは沢を浸し
野を浸し
城や町を浸し
そうしてかつての森を浸しきったところで、
空を覆っていた灰色の雲が薄らいでいきます。
鳥も魚もいない寂しい景色が生まれ、
誰も訪れぬ寂しい土地と呼ばれるようになります。
 
 一面の水のひろがりとなった
湖の真ん中あたりに
あの樫の木の梢が姿を現しています。
右と左から
水の外に突き出た枝は、
まるで手をさしのべあっている
二人の人の姿のように見えます。
やがて年月がたち
季節が巡って、
湖の周りの土地に
樺などの若木が芽生え、
灌木が茂るようになるころ、
その樫の枝にもまた葉が繁っているでしょうか。
繁っているかもしれません。
もしその土地が
なおもどこかにあるならば、
彼らは今もそんな風にして生きていることでしょう。
..... so leben sie auch heute.
 
 
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