10.魔法の木
若き森林官と森の王女。妖精に恋した人間の悲しい恋と戦いのものがたり。ハマン老人の物語る言葉は終わりました。人形たちがお辞儀をして舞台から去り、やがて、その住まいとする鞄の中にしまわれます。
森を、そして森の娘を守ることができなかったという、ジークリートの心のうずきは、ミンナの心にひしひしと伝わりました。幕が下りた後も、いつまでも響いてやみません。
でも、ジークリートとクララが再びまみえることができたから、この演目の再演ができたのです。ミンナは、その観客となることのできた幸いを覚えました。(ハマン老人は、別の機会に、他の物語をも演じてくれましたが、)ジークリートとクララが作られたのは、きっとこのお話のためににちがいありません。
このお話は、ハマン老人の想像力から生まれたものでしょうか。それとも、こうしたことをつぶさに見聞きして、ハマン老人の心には、今もなおそのような痛みが響いているのでしょうか。きっとそうです。ミンナには、ハマン老人の心の響きが聞こえるような気がしました。自分のとぼしい経験では、そのすべてに共鳴することはできないだろうとは思いましたが。
一つの木から生まれた人形たちは、同じ心を持っている。離ればなれになっていても再び出会いたいという。きっと彼らのそんな想いが、私たちの出会いをも導いてくれたのだよ。ハマン老人は、ミンナの気持ちが通じるかのように、そんなことを口にします。
そうですとも。ジークリートとクララは、きっとあの樫の木から彫り出された一対に違いありません。魔法の木から生まれた、魔法の人形に違いありません。