14.ミンナ
 
 秋もたけなわの頃、煉瓦に絡まる蔦が鮮やかに色づいた校舎の一室にミンナはいます。ミンナはもう、立派な女性になって、教師として教壇に立つようになりました。
 冬学期の授業が始まります。さて、ミンナは、教卓の上に置かれた古い旅行鞄から、一対の人形を取り出します。おわかりですね。そう、ジークリートとクララです。学生たちは一瞬きょとんとしますが、人形たちの繰り広げる光景と、生き生きとしたドイツ語の響きの中に、たのしそうに導かれていきます。
 人形たちはまるで心があり、自分で動いているかのようです。もちろん、いつの時代にも、しらけ顔の人はいたるところにいます。でもごらんなさい。生き生きと輝きはじめる顔がここにも、そしてあそこにも。
 
 ひとが喜びや悲しみの中からくみ取ってきた本当のこと。それを精一杯差し出すときには、人の心をうごかすのです。そして本当にこころある人間が操るときには、きっと人形も一生懸命演じるのですよ。そうですとも・・・・
 
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